エルサルバドルが、プレミアムなコーヒー生産国として有名になった原点をご存じでしょうか?
そこには、コーヒー栽培が激動の歴史とともに歩んできたことが関連しています。
国内外の情勢に翻弄されながらも、他とは一線を画す品種パカマラ種とハニープロセス製法を誕生させたことから、国家の本気度が感じられます。
さらに今となっては希少性の高いブルボン種が生産主要品種であることも、エルサルバドルならではの歴史から読み取れるのです。
そこで今回はエルサルバドルコーヒーの特徴や歴史とともに、味わいや美味しいコーヒーの淹れ方などを解説いたします。
ドラマチックなコーヒーストーリーを楽しむことができますよ。
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フリーライター
かつてウィーンで本場のカフェ文化に触れ、その後北部タイで薫り高いコーヒーを味わって以来、コーヒーに心魅かれる。その想いが募り、美味しいコーヒーを追求して2年間の東南アジア・東アジア放浪の旅へ。
エルサルバドルコーヒーとは
エルサルバドルは、北アメリカと南アメリカをつなぐ中央アメリカに位置しています。
太平洋に面し、グアテマラとホンジュラスに挟まれたとても小さな国で、その国土は約2.1万㎢。
九州のちょうど半分、四国より少し大きい国土に約645万人(2019年時点)の人々が生活しています。
中央アメリカで一番人口密度の高い国です。この人口密度の高さは、エルサルバドルの労働生産力に寄与しているとも言えますね。
海や山など豊かな自然環境を持つエルサルバドルですが、コーヒーベルトに属しておりコーヒー農園が多い国としても知られています。
ここはコーヒー栽培に適した5つの条件(土壌・日照量・降雨量・気温・高地)が揃い、良質なコーヒー豆を生産できることから、エルサルバドルでは、コーヒー栽培が積極的に行われているのです。
20以上の火山があり火山灰のミネラルが豊富
エルサルバドルの地形はとても特徴的です。国土のほとんどが標高600m以上の高原地帯で、火山が20以上もあるのです。
火山からは絶え間なく火山灰が降り注ぎ、その火山灰層になった土壌にはミネラルがたっぷり浸み込んでいます。
実はこの火の国ともいえる環境が、コーヒー栽培に適した条件の1つとなっているわけです。
この肥沃な土壌は、単に自然が作り出したものだけではないのです。
コーヒー栽培地には、これを助けるためのシェードツリーが豊富に植えられています。
シェードツリーで土壌を守っている
シェードツリーは直射日光を遮り、土壌が乾燥しないように日陰を作ってくれます。そして落葉が腐葉土を作り出して、木の根元に蓄えます。
この腐葉土がコーヒーノキの肥料になると同時に、雨によって土壌に蓄えられたミネラルが流出するのを防いでくれます。それによってミネラルがたっぷり含まれているのです。
そのうえ、シェードツリーはコーヒーノキが紫外線を大量に取り込むのを避け、成長を促してくれます。
特に熱帯地域の太陽は日差しが強いため、シェードツリーは大きな役割を果たしているのですね。
[関連]コーヒーの木の育て方と三大原種のアラビカ種、カネフォラ種、リベリカ種
コーヒー栽培は農業生産の1/3を占める
エルサルバドルはコーヒー生産がとても盛んな国。コーヒー栽培は農業生産全体の3分の1を占めるほどです。
1956年には世界でも有数なエルサルバドル国立農政省コーヒー研究所が設立されています。
研究所ではコーヒー豆の品質改良やコーヒーノキの病気、被害を受けやすい害虫などといったコーヒー栽培に関わる全般の研究を重ねており、研究所に在籍する農事普及員がコーヒー生産者への指導を行っています。
エルサルバドルコーヒーの特徴と味
国を挙げてコーヒー生産に注力しているエルサルバドルのコーヒーは、一体どんな特徴や味わいなのか気になりますよね。詳しくご説明しましょう。
コーヒー農園の標高と栽培品種
農園 | 品種 | 標高 |
メルセデス農園 | ブルボン種 | 約700m |
サンタリタ農園 | ブルボン種 | 約1,500m |
ジャノグランデ農園 | パカマラ種 | 約1,500m |
シベリア農園 | ブルボン種、パカマラ種 | 約1,500m |
モンテカルロス農園 | ブルボン種、パカマラ種、カトゥーラ種、カトゥアイ種 | 約1,750m |
モンテシオン農園 | ブルボン種 | 約1,600m |
サンタローサ農園 | パカマラ種 | 約1,550m |
サンタテレサ農園 | パカマラ種 | 約1,200m |
ラ・レフォルマ農園 | ブルボン種 | 約1,400m |
エルサルバドルで有名な農園はこちらで、その多くがブルボン種をベースとして栽培しています。
いずれもアラビカ種系の派生品種となっており、美味しい上質なコーヒー豆を中心として栽培されているんです。
また、標高が非常に高いことも、上質なコーヒー豆になる理由です。
ブルボン種が60%以上を占めている
エルサルバドルで生産されるコーヒー豆はすべてがアラビカ種です。最も多い品種はブルボン種で60%以上を占めています。
ブルボン種は古くからある品種ですが、病気にかかりやすく育てにくいことから減少傾向にあります。
エルサルバドルでは内戦が続いたことで品種改良が途絶えたうえ、新たな品種の植え替えなどが遅れいまだに生産比率が高いままとなっています。
世界情勢に取り残された感のあるエルサルバドルですが、この状況が逆に希少性の高さを生み出し、価値のあるコーヒー生産国として位置づけられているとも言えます。
[関連]アラビカ種のコーヒー豆の特徴と品種について解説します。
[関連]ブルボン種とは?コーヒー品種の特徴と味わい、歴史について
ブルボン種の突然変異したパーカス種が30%占めている
続いて多いのがパーカス種です。パーカス種はブルボン種から突然変異した矮性の品種で、エルサルバドルの農園で発見されました。
また国立コーヒー研究所が人工交配させたパカマラ種も一部で生産されています。
パカマラ種はパカス種とマラゴジッペ種(ティピカ種の変異種)を交配させた品種で、粒が大きく品質が高いということで知られています。
ですが、生産数が全体の3%ほどしかないため、希少性の高い品種として取引されています。
そのほかカトゥーラ種、カトゥアイ種なども栽培されています。
生産数の70%は標高900m~1,500mの山間部で栽培
代表的な産地は首都のあるサンサルバドル県、サンタアナ県(西部)、ラ・リベルタ県(中部)、ウスルタン県(東部)です。
数多くの農園がありますが、農園によって栽培環境は異なります。その中から一部をご紹介しましょう。
ジャノグランデ農園
ジャマテペック山麓に位置する農園です。
火山地帯のエルサルバドルには珍しく、標高約1,500mでありながらも平地であるのが特徴です。
3ヘクタール程の農園ではパカマラ種を栽培しています。
シベリア農園
標高約1,500mで傾斜が厳しく、強風に晒される土地でパカマラ種が栽培されています。
パカマラ種は根付きが良いことから、このような厳しい環境でも育てることができ、一般的な環境で育った同種よりも実の締まったコーヒー豆になるのが特徴です。
モンテカルロス農園
1992年に初めてパカマラ種を商業生産した農園です。標高1,500m~1,800mの傾斜を利用しコーヒーを栽培しています。
約500ヘクタールもある広大な土地では、4品種(ブルボン種、パカマラ種、カトゥーラ種、カトゥアイ種)を生産しています。
ハニープロセス製法で精製
エルサルバドルでのコーヒー豆の精製は、従来のウォッシュド(水洗式)に取って代わって、近年ではハニープロセス製法が主流になりつつあります。
ハニープロセス製法とはナチュラル製法(乾式)とウォッシュド製法の良い部分を採用した方法です。
ウォッシュド製法
コーヒー豆は真っ赤に熟しコーヒーチェリーになったら収穫期のサイン。このコーヒーチェリーの果肉を取り除くと、種だけの状態になったパーチメントコーヒーになります。
この表面には、ミューシレージというネバネバとした粘液質が付着しています。
ミューシレージを残したまま乾燥させると、この成分が発酵し品質が落ちてしまうため、ウォッシュド製法では水洗いしてから乾燥させます。
[関連]コーヒーのウォッシュド精製(水洗式)とは?特徴や味わい、精製手順について
ハニープロセス製法
一方ハニープロセス製法は、ミューシレージを少しだけ残して乾燥工程に入ります。
この製法を行うと、乾燥の工程中、ミューシレージの糖分がコーヒー豆まで浸み込み、甘みのある味わいに仕上がるのです。
この製法は手間がかかるものの、味の充実度が高まることから、多くのコーヒー農園ではこの製法にシフトしつつあります。
より品質の高い味わいを求めようとしていることがうかがえる製法ですね。
まろやかな酸味と甘みが特徴的な味わい
エルサルバドル産コーヒー豆は、ハニープロセス製法で精製していることから、この製法ならではのナチュラルで甘く優しい味わいを楽しめます。
また柑橘系にまろやかさを加えた酸味もあり、爽やかな後味も広がります。
香りはナッツやミルクチョコのような甘いフレーバー
エルサルバドルのコーヒーは全体的にまろやかで飲みやすい口当たりが特徴的です。
ナッツのような芳ばしさとミルクチョコレートのような甘い香りがダブルで贅沢に感じられ、香りと風味のバランスの良さも際立ちます。
▼エルサルバドルコーヒーの味わい
エルサルバドルコーヒーの等級
等級 | 標高 |
ストリクトリー・ハイ・グロウン(SHG) | 1,200m~ |
ハイ・グロウン(HG) | 900~1,200m |
セントラル・スタンダード(CS) | ~900m |
エルサルバドルのコーヒーは生産地の標高で格付けが決定されます。グレードは3段階に分けられ、標高が高くなるほど等級が上がります。
ストリクトリー・ハイ・グロウン(SHG)が最高級のグレードになり、続いてハイ・グロウン(HG)、セントラル・スタンダード(CS)の順に位置づけられます。
コーヒー豆のパッケージや商品説明には、商品規格欄にエルサルバドルSHGエルサルバドルHGエルサルバドルCSと表記されていますので、等級を判別しやすくなっています。
[関連]コーヒー豆の等級(グレード)を生産国別に詳しく解説!
エルサルバドルコーヒーの歴史
エルサルバドルにおけるコーヒー産業は、歴史に翻弄されるかのように移り変わっていきます。その歴史について解説しましょう。
1858年にコーヒー生産が開始される
中央・南アメリカに初めてコーヒー豆が上陸したのが1714年です。スリナム共和国から始まり、26年後の1740年にエルサルバドルに伝わったと言われています。
エルサルバドルでの本格的なコーヒー栽培は1858年に始まり、その開始からすぐに、コーヒー生産は国家主導となっていました。
コーヒー生産者には減税を行うという優遇税制で、コーヒー農家を奨励する制度を設け、これによりコーヒー生産の拡大を図りました。
1880年に世界4位のコーヒー生産国となる
小さな農園の集合体から始まったエルサルバドルのコーヒー栽培は、大規模農園を展開していき、1880年には世界4位のコーヒー生産国となるほど、コーヒーを中心にエルサルバドルの経済が発展しました。
1940年には全輸出品目の90%をコーヒーが占めるまでにコーヒー産業は成長し、この時代はコーヒー栽培の黄金期とも呼ばれるようになります。
当時の歴代大統領はほぼ全員がコーヒー農園主で、国民の4分の3がコーヒー生産の従事者、残り4分の1の内、90%が間接的にコーヒーに関わっており、国民のほぼ全員がコーヒー従事者とも言えるほどでした。
当時の主な輸出先はドイツとアメリカで、現在はランクダウンしているものの、2019年時点では世界24位と高い地位を維持しています。
輸出量ベースでは、輸出先の1位がアメリカ(41%)、2位が日本(14%)、3位がドイツ(9%)です。
現在においても、エルサルバドルの経済を支える産業であることには変わりありません。
国花がコーヒーの花になるほど国民的な農業になる
世界恐慌によって波及したコーヒー相場の大幅な下落は、1930年代から価格が上昇するまでの1950年代まで続きました。
この大きな波に翻弄されながらもエルサルバドルのコーヒーは、ワシントンで締結されたコーヒー米州協定によって、安定的な生産・供給を維持していました。
しかし1970年代に入り、内戦が勃発。おもにコーヒー生産地の山岳部が戦場化したため、輸出額は半減します。
情勢不安に加え、海外輸出税が引き上げられるなど、コーヒー産業は圧迫を受けることになりました。
それでもコーヒーの花が国花に指定されるほど、コーヒーはエルサルバドルで国民から愛される産業になっています。
1989年の政権交代で、コーヒービジネスの自由化と海外輸出税の廃止が決定。これをきっかけにコーヒー産業は、コーヒー生産地の拡大や技術刷新などといった生産量増加の計画を実施し、目覚ましい回復を遂げています。
またブルボン種、パカマラ種を使用したプレミアムコーヒーの生産を始め、品質を重視した販売にシフトしさらなるコーヒー産業の発展を目標に掲げています。
エルサルバドルコーヒーの美味しい淹れ方と飲み方
エルサルバドル産コーヒー豆は品種それぞれに特徴があり、焙煎の度合いやコーヒーの淹れ方によって、その味わいと風味を幾分にも堪能することができます。
その中でも、おすすめの美味しい淹れ方と飲み方をご紹介しましょう。
まろやかさを堪能する浅煎り~中煎りで
まろやかな甘みと酸味が特徴のエルサルバドルコーヒー。このバランスを楽しむためには、浅煎りから中煎り程度の焙煎がおすすめです。
若干浅煎りよりにすると、フルーティな酸味が際立ちます。
中煎りではまろやかな甘みにコクが加わり、ナッツのような芳ばしさとミルクチョコレートのような甘い香りが広がります。
甘みを引き出せる90℃のお湯で淹れる
コーヒーを淹れる際、お湯のちょっとした温度変化でも、コーヒーの味に違いが出てきます。
エルサルバドルのコーヒーはまろやかな酸味と甘みが魅力です。
甘みを引き出せる適温は90℃。沸騰したてのお湯で淹れると、尖った酸味や苦味など、雑味を出してしまいます。
沸騰後、一旦90℃まで下げてからコーヒーを淹れて、味わいを楽しみましょう。
人気のコーヒーアイテムをランキング形式で厳選してご紹介!
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