コーヒー業界はもとより、パナマの知名度を上げたのはパナマ産コーヒーのゲイシャでした。
パナマは一気に脚光を浴び、上質なコーヒー銘柄の産地としてブランド力を高めるきっかけになったのです。
今ではパナマコーヒーと言えば高級コーヒー!と言われるほど人気の高い銘柄として地位を確立しています。
今回は、そこに行き着くまでのストーリーと、2004年の重大な出来事について探ってみましょう。
そしてさらに特徴や歴史などを掘り下げて、パナマコーヒーの魅力を解説します。
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フリーライター
かつてウィーンで本場のカフェ文化に触れ、その後北部タイで薫り高いコーヒーを味わって以来、コーヒーに心魅かれる。その想いが募り、美味しいコーヒーを追求して2年間の東南アジア・東アジア放浪の旅へ。
パナマコーヒーとは
中央アメリカに位置しているパナマ共和国
パナマは中央アメリカの最南端に位置し、北海道よりやや小さい国土に約422万人が生活する小さな国です。
太平洋と大西洋を結ぶパナマ運河は世界的にとても有名ですよね。
1914年に完成したパナマ運河は、パナマ経済に大きく影響する重要な要衝で、船舶が運河を通過する際に支払う通行料が国家の大きな財源となっています。
パナマの主要産業はパナマ運河の運営や国際金融センター、観光などの第3次産業です。
GDPの約7割を占めていますが、バナナや魚介類、砂糖などの農漁業の輸出も盛んです。
2020年の名目GDPは世界85位で、中央アメリカでは69位グァテマラ、75位コスタリカに次ぐ3番目に位置します。
代表的なのは世界的に人気のあるゲイシャ種
パナマコーヒーを一躍有名にしたのがゲイシャ種です。
近年ではパナマコーヒーの代表格であり特別な品種として存在しています。ゲイシャ種の風味はゲイシャフレーバーと言われ、特有のものを持ちます。
コーヒーチェリーの瑞々しさが伝わる強い果実感、フローラルで華やかな香り、そして透明感のあるスッキリとした味わい。
軽やかな酸味と控えめなコク…。さまざまな要素が交じり合い、ゲイシャ種でしか味わえない風味です。
同時に特別感も味わえることから人気の高い銘柄として名を揚げました。
そんなコーヒーなら世界中で人気を博すのは当然のこと。でもなぜパナマの代表銘柄なのでしょうか?そこには理由があるのです。
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エスメラルダ農園がゲイシャ種で過去最高額を叩き出した
ゲイシャ種はエチオピアのゲシャ村に自生する原生種です。
世界中に広まるものの、アラビカ種特有の病害虫に弱い性質を持ち、樹高が非常に高く4mほどもあることから栽培・管理しにくい品種として、盛んに栽培されることはありませんでした。
この栽培を試みたのがパナマのエスメラルダ農園です。丹念な栽培を続け生産に成功したエスメラルダ農園のゲイシャ種は、2004年パナマスペシャルティコーヒー協会主催のベスト・オフ・パナマ品評会で1位を獲得。
さらに同時開催の国際オークションでは、1パウンド当たり20米ドルの歴史上最高額で落札されました。
初出品から毎年高値を付け、2021年度には2,568米ドルを記録しています。
生産量は世界のコーヒー生産量に対して約0.064%
2020年のパナマ産コーヒーの生産量は6,900トン。全世界の生産量が10,688,153トンなので、世界シェアはわずか約0.064%しかありません。
世界国別ランキングでは世界第42位。中央アメリカに絞ってみても、7位ホンジュラス、10位グァテマラ、13位ニカラグア、 15位コスタリカ、25位エルサルバドルと差をつけられています。
コーヒー生産量は決して多くないものの、スペシャルティコーヒーの産地として君臨しているのがパナマコーヒーです。
パナマコーヒーの特徴と味
柑橘系とフローラルで上品な香りが特徴
パナマコーヒーはゲイシャ種だけに限らず、その他の品種でも同様に良質な風味を持ちます。
全体的に甘酸っぱい柑橘系と花のようなフローラル系の香りを併せ持ちます。
複数の香りが混在することで雑多なイメージになりがちですが、決して雑然としたものではなく、複雑に絡み合った上品な香りが特徴です。
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柔らかい口当たりと繊細さを持つ
パナマコーヒーは酸味が少なめでありながらもスッキリとしています。
苦味やコクが控えめなことから、全体的なバランスが良く柔らかい口当たりが特徴的です。
さらにあっさりとした後味が広がり、繊細さを感じられる優雅な飲み心地です。
▼パナマコーヒーの味わい
パナマコーヒーの栽培環境
国土の約8割が山や丘陵で平均的な標高が高い国
パナマは山や丘陵が非常に多い国で、国土の約8割を占めます。
国内で最も高い山が標高3,474mのバル火山で、パナマの国土全体が平均的に高い標高。
パナマではアラビカ種とロブスタ種の両方を生産しており、ロブスタ種は標高1,000m以下です。
一般的なアラビカ種が1,000m~1,700m、ゲイシャ種は1,500m~2,300mで栽培しています。
主要産地のチリキ県ボケテ地区はバル火山エリアに位置し、ミネラルを多く含んだ火山灰性の肥沃な土壌です。
それでいて熱帯性気候で雨季には1日に1~2回スコールが降ります。
さらに山岳地帯特有の昼夜の寒暖差もあり、良質なコーヒー豆の生育に最適な条件を作り上げているのです。
ゲイシャ種を代表にブルボン種、カトゥアイ種、ティピカ種などを栽培
パナマではゲイシャ種を代表格に、アラビカ種のブルボン種、カトゥアイ種、ティピカ種などを栽培しています。
ブルボン種とティピカ種はいずれも古くから存在する品種で、風味は優れているものの栽培が難しいため、今では減産傾向にあります。
純粋なブルボン種とティピカ種は、希少性の高い品種です。
ティピカ種はフレッシュな酸味と香り、コクのバランスが優れ、ブルボン種は芳醇な香りとコクと甘みがあり、リッチな風味があります。
カトゥアイ種は複雑に掛け合わされたハイブリッド種で、ルーツを辿ればブルボン種に行き着きます。
環境適用能力が優れており栽培しやすい品種ですが、特別に際立つ特徴はなく、飽きのこない風味です。
[関連]アラビカ種のコーヒー豆の特徴と品種について解説します。
[関連]ティピカ種とは?コーヒー品種の特徴と味わい、歴史について
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質を重視した小規模農園で良質なコーヒー豆を生産
パナマは小規模農園が多く、家族経営の生産者が多数を占めます。
収穫時期になると、真っ赤に熟したコーヒーチェリーを手作業で1粒1粒摘み取っていきます。
この時期は人手不足になるため、産地付近に住む先住民族のノーベ族を雇い、収穫を進めます。
ゲイシャ種は、通常のアラビカ種よりもさらに高い位置に実をつけるため、収穫作業が困難を極めます。
それでいて結実として残るコーヒーチェリーが非常に少なく、その分希少性が高くなります。
大規模農園のように機械を使った機械摘みは行えないため、非常に手間はかかります。
ですが、傷がつきにくく真っ赤に熟した果実のみを厳選して摘み取るので、均一で高品質のコーヒーを生産することができるのです。
ナチュラル製法をベースにハニープロセスやウォッシュドを採用
精製は収穫したコーヒーチェリーを生豆にするまでの工程作業で、コーヒーの風味を決定づけるとても大事な要素のひとつです。
ウォッシュド製法は脱穀後にしっかりと豆を水洗いする方法で、均一の取れたクリアな風味の豆に仕上がります。
ハニープロセス製法では脱穀する際、粘液質(ミューシレージ)を少し残し水洗いする方法で、果肉の成分が豆に浸み込み、コクと甘みのある風味になります。
そして、ナチュラル製法はコーヒーチェリーを乾燥させた後に脱穀する方法で、コーヒーチェリーの風味をそのまま残します。
もともとパナマではウォッシュド製法による精製方法が主流でしたが、近年ナチュラル製法やハニープロセス製法も取り入れています。
[関連]コーヒーのウォッシュド精製(水洗式)とは?特徴や味わい、精製手順について
パナマコーヒーの等級
略号 | 等級 | 標高 |
SHB | ストリクトリーハードビーン | 1,350m~ |
HB | ハードビーン | 1,050~1,350m |
EPW | エクストラプライムウォッシュド | 900~1,050m |
パナマコーヒーの品質評価は、栽培地の標高の高さによって決められます。
等級は3段階に区分けされ、最も高いグレードが標高1,350m~のSHB、続いて標高1,050m~1,350mのHB、標高900m~1,050mのEPWが続きます。
ゲイシャ種は標高1,700m~2,300mでも栽培されている地域があり、1,500m以上でゲイシャ種独特の風味が発揮すると言われています。
最高等級をさらに超えるほどの品質と言っても過言ではありませんね。
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パナマコーヒーの歴史
1870年頃にコーヒー文化が持ち込まれる
パナマコーヒーの歴史は、コーヒー産地として有名なグァテマラやコスタリカなどの近隣諸国よりも少し後になります。
すでにこれらの国ではコーヒー産業が成長していた1870年頃に、パナマでは初めてコーヒーの苗木が持ち込まれたと言われています。
当時、世界各国の移民がパナマへ流入し、ボケテ地区で開墾をはじめました。
1890年頃までには40ほどのコーヒー農園があった、という記録が残っています。
世界恐慌と2つの世界大戦、そして10年以上続いたさび病被害を乗り越えて、パナマコーヒーの栽培は続けられました。
しかし、とりわけ高品質でありながらも生産量が少ないため、世界のコーヒー市場で名をあげる機会はありませんでした。
2004年のベスト・オブ・パナマで一躍大人気に
1990年以降、コーヒー産業の発展を阻む世界的なコーヒー価格の暴落や国内の人件費高騰により、パナマは窮地に追い込まれます。
そこで、パナマスペシャルティコーヒー協会を立ち上げ、パナマ独自のコーヒー作りを開始。
そんな中、かねてよりゲイシャ種の栽培を行っていたエスメラルダ農園が2004年に同協会主催のベスト・オブ・パナマで1位を獲得したのです。
さらに国際オークションでは過去最高額で落札されます。これを機にパナマコーヒーのブランド価値もあがり、存在を世界中に知らしめることになりました。
エスメラルダ農園のゲイシャコーヒーは、現在においても最高価格を更新し続け、人気を博す銘柄まで登りつめています。
パナマコーヒーの美味しい淹れ方と飲み方
パナマコーヒーの特徴は柑橘系とフローラル系の香り、そして繊細な味わい。ゲイシャ種に至っては、ゲイシャフレーバーといずれも優れた風味を持ちます。
そんな魅力的なコーヒーを余すことなく、しっかりと堪能したいものですよね。
そこで、パナマコーヒーを存分に味わえるコーヒーの淹れ方をご紹介します。
浅煎りでフルーティーな香りを引き出す
優れた果実感の香りと透明感のある味わい、そして軽やかな酸味を堪能できるのが浅煎り。
浅煎りはフルーティーさを引き出す最適な焙煎度合いです。
コーヒーを淹れる際は、95℃くらいの温度で少しずつ複数回に分けてお湯を注ぎましょう。そうすることで、浅く焙煎した豆の風味が時間をかけてじっくりとお湯に溶け出します。
透明感を追求するならぺーパードリップ、まろやかな口当たりも感じたい場合にはネルドリップがおすすめです。
上質だからこそフレンチプレスでダイレクトに味わう
フレンチプレスはコーヒーの風味をぜんぶ堪能したいという時にピッタリの飲み方。手順が少ないうえ、豆の本質をそのまま味わえる本格的な抽出方法です。
コーヒーの油分が溶け出しコクとうまみも一緒に抽出されるため、パナマコーヒーの繊細で上質な風味をしっかりと感じ取れます。
淹れ方はとても簡単。まず温めておいたガラスポットにコーヒー粉とお湯を入れで4分程度待ちます。
そしてシャフトをゆっくりと押し下げ、コーヒー液が抽出されたらコーヒーカップに注いで完成です。
シャフトはガラスポットの底にあたらないように手前で止めるのがポイント。底まで下げると、コーヒー粉がつぶれて雑味が出てしまいますので、注意しましょう。
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GLOBAL NOTE(世界の名目GDP 国別ランキング・推移(IMF))
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