日本でのコーヒー文化が始まった当初から、長く親しまれているキリマンジャロコーヒー。
広大なインド洋から流れる清々しい風に吹かれながら、丹念に育てられた上質なキリマンジャロコーヒー。
アラビカ種コーヒーならではの透明感のあるスッキリとしたテイストと華やかな香りが特徴です。
キリマンジャロコーヒーは、正に「香りを味わう」に等しいとも言える、香りと酸味が際立つコーヒーなのです。
その特徴や美味しい淹れ方、歴史や等級などの基礎知識を学びながら、キリマンジャロコーヒーの魅力を探ってみましょう。
この記事を書いた人 フリーライター かつてウィーンで本場のカフェ文化に触れ、その後北部タイで薫り高いコーヒーを味わって以来、コーヒーに心魅かれる。その想いが募り、美味しいコーヒーを追求して2年間の東南アジア・東アジア放浪の旅へ。
キリマンジャロコーヒーとは
インド洋に面したアフリカ大陸東部に位置するタンザニア。雄大な大自然を持つ国土の北東部に、標高5,895mの山キリマンジャロがそびえています。
キリマンジャロコーヒーは、このアフリカ最高峰のキリマンジャロ山域で栽培されています。
主要な産地は、キリマンジャロ山麓にあるモシという町とアルーシャという町ですが、キリマンジャロブランドはタンザニアで生産されるコーヒー豆がすべて対象とされています。
農業人口が7割もある農業立国
日本の2.5倍ほどの国土に5,800万人が住むタンザニアは、総労働人口のうち農業に占める割合が7割もあるほど農業立国です。
国家主導で農業分野に力を注いでいる中、キリマンジャロコーヒーはタンザニア経済の支えとなっています。
FAO(国際連合食糧農業機関)による統計(2019年発表)では、タンザニア産コーヒー豆の輸出量は65,075トンで食品輸出品目の8位、輸出額は約1億4,000万ドルで4位です。
また世界的に見た生産状況では、コーヒー生産国ランキング21位で世界シェアが0.51%となっています。
キリマンジャロは『白く輝く山』『神の家』と呼ばれる
キリマンジャロは、タンザニアとケニアの国境をまたいでいますが、大部分の山域がタンザニアに属しています。
赤道から340kmほどに位置していながらも、山頂は一年中雪に覆われているのです。
キリマンジャロの名前の由来は、タンザニアの公用語であるスワヒリ語で「キリマ=山」、キリマンジャロ山麓に住むチャガ族の言語であるチャガ語で「ンジャロ=白さ」が語源です。
また遊牧民族として暮らすマサイ族の人々には「ンガジェンガ(ンガイエ・ンガイ)=神の家」と呼ばれています。
このようにキリマンジャロは、山頂に白く輝くその美しさから、現地の人々には「白く輝く山」「神の家」と呼ばれ、神聖な山として崇められているのです。
キリマンジャロ山麓の標高1,500mから2,500m付近で栽培
地球上の赤道付近では、あたかも1つの帯状のようにコーヒー豆の有名産地が集中しています。
これはコーヒーベルトと言われ、この一帯が安定して良質なコーヒー豆を栽培できる環境を得ていることを意味します。
キリマンジャロも同様にこのコーヒーベルトに属していますが、山の特性から植物が生育する環境が場所によってまったく異なってきます。
アラビカ種のコーヒーノキが生育しやすい環境の条件は、「温度」「降水量」「土壌の質」「日当たり」です。
これらの条件が揃うのがキリマンジャロの標高1,500mから2,500m付近なのです。
温暖で降水量が多く、昼夜の激しい寒暖差の中コーヒーノキを育てることで、実の引き締まったコーヒー豆になり、しっかりとした味わいに仕上がります。
キリマンジャロコーヒーの特徴と味
品質の高いキリマンジャロコーヒーには、そのコーヒー豆の特質から酸味や香り、甘味などが表れてきます。
名を馳せるに充分な優れたキリマンジャロコーヒーについて特徴や味をご紹介します。
生豆は緑灰色で大粒
コーヒーノキに小さな可愛らしい花が咲き、気品のある香りを放った後、数か月後には真っ赤な実が実ります。
このサクランボのようなコーヒーチェリーを精製した生豆は、黄緑色、青緑色、淡い青緑色、深緑色など品種や産地によって異なってきます。
キリマンジャロコーヒーの生豆は、比較的ふっくらとした大粒で緑灰色。
キリマンジャロコーヒーの特徴である華やかな香りは、生豆のままでもしっかりと伝わるのです。
強い酸味と華やかな香りを持つ
キリマンジャロは日本の富士山と同じ成層火山。その火山活動によって積み重なった火山灰と、キリマンジャロの雪解け水からなる、良質な土壌から生み出されます。
特徴的なのは、優雅な酸味と華やかな花の香り。コーヒー豆の酸味は、標高が高くなればなるほど強くなると言われています。
キリマンジャロコーヒー高山栽培であることから、酸味が際立ち、華やかな香りとの洗練されたバランスが特徴になっているのです。
正に「香りを味わう」に等しいとも言える秀でた香りと酸味のコーヒーです。
浅煎りならフルーティーに、深煎りなら甘い香りに
まったく同じ生豆でも焙煎の度合いによって、香りや酸味、甘味のバランスを多様に変化させることができます。
銘柄に合った焙煎の度合いだけではなく、自分の好みに合わせて何通りにも調整できるのがコーヒー豆の面白さであり最大の特徴です。
キリマンジャロコーヒーの特徴は、上質な酸味と華やかな花の香り。
この特徴を引き出すには、フルーティーな酸味をしっかりと感じられる浅煎り、甘い香りや香ばしさを引き立たせる深煎りがおすすめです。
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▼キリマンジャロコーヒーの味わい
キリマンジャロコーヒーの等級
等級 |
サイズ・条件 |
AA |
6.75mm~ |
A |
6.25mm~6.75mm |
B |
6.15mm~6.25mm |
C |
5.9mm~6.15mm |
AF |
AAとAの中で軽い豆 |
TT |
Bの中で軽い豆 |
F |
AF、TTの中で軽い豆 |
PB(ピーベリー) |
希少価値の高い豆 |
コーヒー豆の格付けは各生産国が独自に設定している
コーヒー豆の格付けとなる等級は世界統一基準というものがないため、各生産国が独自に評価基準を設定しています。
基本的な基準項目はスクリーンサイズ、産地の標高、欠点数であり、これらの基準に基づいて等級を決定します。
キリマンジャロコーヒーはスクリーンサイズを基本とし、ほかに豆の重さや欠点数などを付加させた基準に基づいて評価します。
このスクリーンサイズとはコーヒー豆の大きさを意味し、大きくなればなるほど高評価となります。
日本で販売されるキリマンジャロは最高等級が主流
キリマンジャロコーヒーでは、AA、A、B、Cの等級に区分され、AA等級が最高等級になります。
さらに細かく分けられ、AAとAの中で軽い豆をAF、Bの中で軽い豆をTT、そしてAF、TTの中で軽い豆をFと分類しています。
日本で販売されているキリマンジャロコーヒーは、最高等級AAが主流となっています。
上質なコーヒー豆をブレンドせずにストレートで飲むのが好まれています。
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キリマンジャロコーヒーの歴史
現在日本では「キリマン」と称され、人気の定番銘柄とまでになったキリマンジャロコーヒー。
そこにはストーリーがあり、歴史に触れることで、キリマンジャロコーヒーをより楽しむ足掛かりにもなります。
キリマンジャロコーヒーを味わうひとときに、ちょっとしたエッセンスが加えられて面白いかもしれません。
そこでキリマンジャロコーヒーの歴史について紐解いてみましょう。
1890年代にギリシャ人が持ち込んだと言われている
ヨーロッパ諸国がアフリカ大陸において勢力を伸ばしているさなか、タンザニアでの最初のコーヒー栽培地の舞台となったのは、キリマンジャロ東部インド洋にほど近い東ウサンバラでした。
当時コーヒーの需要が世界的に広がりつつあり、ビジネスチャンスをつかもうとドイツ人がこのドイツ領である東ウサンバラ地域でコーヒー栽培を始めます。
しかし東ウサンバラ地域は、気温や雨量などのコーヒー栽培に適した条件が揃っていませんでした。
さらにコーヒーを栽培するための生産人口が充分ではなかったのです。
そのため東ウサンバラ地域でのコーヒー栽培は、苦難を強いられる状況に陥ります。
ドイツ人やイギリス人がキリマンジャロ山域に開拓
イギリス人や東ウサンバラ地域でのコーヒー栽培に失敗したドイツ人も、キリマンジャロ山域でコーヒー農園を開拓していきます。
その数は100にも及び、1914年頃になるとコーヒーノキは200万本も立ち並ぶほどに拡大していました。
その当時、キリマンジャロ山域で栽培されたコーヒー豆はキリマンジャロブランドとしての価値や品質が認知されるまでには程遠い状況でした。
しかし鋭い酸味と薫り高い上質なキリマンジャロコーヒーの商品価値は高く、一時期イエメンのモカ港へ出荷。
モカコーヒーブランドとして、ヨーロッパ各地へ輸出されていたという歴史があります。
日本では1953年あたりから浸透
日本でキリマンジャロコーヒーが台頭することになるのは1953年頃からです。
アーネスト・ヘミングウェイの短編小説「キリマンジャロの雪」が映画化されたことで、キリマンジャロコーヒーの知名度が一躍高まります。
タンザニアがイギリスの植民地であったことから、「英国王室御用達」というキャッチフレーズまで登場するようになりました。
こうしてキリマンジャロコーヒーは、日本でブルーマウンテンとモカに次ぐ人気を確立していくことになります。
日本へのタンザニア産コーヒー豆の輸出は、2020年時点で世界7位
タンザニアにおける日本への総輸出品目の中でも、コーヒー豆は1位で51.3%のシェアを占めています。
依然としてキリマンジャロコーヒーは、日本で人気を誇る銘柄の地位を維持し続けていますね。
キリマンジャロコーヒーの美味しい淹れ方と飲み方
その日の気分によってコーヒーの淹れ方を変え、自分好みの味わいに調整できるのもコーヒーを淹れる楽しみの1つ。
そこにはキリマンジャロコーヒーの美味しさだけではなく、自分だけの特別な時間も広がってきます。
コーヒーの淹れ方には、ハンドドリップやフレンチプレス、サイフォンなどの方法があり、それぞれの特徴に合った美味しいコーヒーに仕上がります。
そこで、キリマンジャロコーヒーを美味しく味わえるおすすめの淹れ方をご紹介します。
酸味を楽しむペーパードリップ
中煎りされたキリマンジャロコーヒーは、柑橘系に近い酸味と香り豊かなバランスの良い風味を楽しむことができます。
そんな酸味と香りをそのままに、コーヒーの成分をじっくりと抽出するのがペーパードリップ。
「華やかな香りを味わう」のにピッタリの淹れ方です。
ペーパードリップならではの特徴は、コーヒーの油分が紙フィルターに吸着して油分の抽出を抑えてくれることです。
こうしてペーパードリップで淹れたキリマンジャロコーヒーは、爽やかな酸味とすっきりした味わいを楽しむテイストに仕上がります。
酸味と苦味をバランス良く味わうフレンチプレス
フレンチプレスではコーヒー豆の油分もそのまま抽出しますので、淹れ立てのコーヒーの表面にはキラキラと光るコーヒーの油分が見てとれます。
フレンチプレスの中でコーヒー粉とお湯が数分間接触し続け、さらにシャフトをかぶせて香りを閉じ込めるので、コーヒー豆のうまみや苦みも一緒にじっくりと溶けだしてきます。
キリマンジャロコーヒー豆そのものの持つ酸味や苦み、風味をすべて抽出し、味わいを忠実に伝える淹れ方ですので、キリマンジャロコーヒーをバランス良く楽しみたい方におすすめです。
まとめ
今回は、キリマンジャロコーヒーの特徴や歴史、キリマンジャロコーヒーの美味しい淹れ方などについて解説してきました。
コーヒーの味わいは歴史とともにあるとも言われるほど、コーヒー豆は各産地での発祥から始まり、栽培環境に至るまで大きく影響します。そしてその味わいや香り、酸味はさまざまです。
キリマンジャロコーヒーの特徴は、際立った酸味と華やかな香り、そして透明感のあるテイスト。
世界三大コーヒー銘柄の1つとして知られており、特定の地域で栽培された希少価値の高いコーヒー豆です。
日本でもブルーマウンテンやモカと並び人気の高さを維持しています。
そんなキリマンジャロコーヒーならではのテイストを堪能してみてはいかがでしょうか。
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この記事を書いた人
フリーライター
かつてウィーンで本場のカフェ文化に触れ、その後北部タイで薫り高いコーヒーを味わって以来、コーヒーに心魅かれる。その想いが募り、美味しいコーヒーを追求して2年間の東南アジア・東アジア放浪の旅へ。各国カフェタイムの過ごし方はさまざま。カフェ空間が人々にもたらす癒しや活力、その奥深さに魅力を感じながら、コーヒーへの探求心はなおも続く。