コーヒーを購入する際、ブラジル・キリマンジャロ・ブルーマウンテンなどの銘柄がずらりと並んでいますよね。
それもそのはず、コーヒー豆の銘柄は生産国や産地、そして産地にゆかりのある山や港に由来するものが多いのです。
銘柄とは品種をさらに細かく分けると、コーヒー豆の品種は実に200種類を超えると言われています。
そこで今回は、三大原種のひとつであるアラビカ種にフォーカスして徹底解説いたします。
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かつてウィーンで本場のカフェ文化に触れ、その後北部タイで薫り高いコーヒーを味わって以来、コーヒーに心魅かれる。その想いが募り、美味しいコーヒーを追求して2年間の東南アジア・東アジア放浪の旅へ。
コーヒー豆のアラビカ種とは
コーヒー豆の品種は、元を辿ってみると、「コーヒー豆の三大原種」という言葉に辿り着きます。
つまりコーヒー豆は「銘柄 < 品種 < 原種」という順序で分類が大きくなっていくもの。
三大原種とはアラビカ種、カネフォラ種(ロブスタ種)、リベリカ種の3つ。
その中のもっとも品質が高く、上品な味わいで有名なのが今や世界の大半で栽培されているアラビカ種です。
[関連]コーヒー豆にはどんな品種があるの?産地や育て方の違いを解説します。
アラビカ種の特徴
甘い香りがあるアラビカ種
漂う華やかなアロマと、贅沢な味わいが多くのコーヒーファンを魅了するアラビカ種。
その味と香りはとても上質。透明感のある鮮やかな風味が特徴的で、酸味が強くあたかも花のような甘い香りがあります。
そして焙煎を加えることで、さらに香り・苦み・甘みが引き出されます。
現在、多くのコーヒー専門店では高品質と評されるスペシャルティコーヒーを提供していますが、そのほとんどがアラビカ種なのです。
原産地はアフリカのエチオピア
アラビカ種の原産地は、東アフリカに位置するエチオピアと言われています。
現在流通しているアラビカ種のほとんどは、コーヒー農家が栽培する栽培種です。
ブラジル・コロンビア・インドネシアなどの主要生産国をはじめ、世界中に栽培が広まっています。
今でもなお、エチオピアの高原地帯にはコーヒーノキが自生しています。
野生種は一様性が進みすぎると、近い遺伝子同士の交配によってさまざまな環境への適応性が低下。最悪の場合、絶滅の恐れがあります。
そのため個体の多様性を目的に、一部のコーヒー農家では稀に野生種を使用することもあるのです。
全世界のコーヒー総生産の約60%がアラビカ種
現在、世界各国で栽培されているコーヒー豆の全生産量のうち、6割がアラビカ種と言われています。
アラビカ種よりも栽培しやすく、生産性の高いカネフォラ種(ロブスタ種)がシェアを拡大している現在。
それでもアラビカ種が全体の割合を大きく占める理由は、優質な風味と言えるかもしれませんね。
アラビカ種の栽培環境
アラビカ種は病害虫に弱く栽培が難しい
アラビカ種の栽培には全神経を注がなければならないほど、アラビカ種はとても繊細な品種です。
霜や乾燥などに弱く気候に大きく左右されるうえ、さび病などの病害虫への耐性にも低いです。
そのため栽培するのが極めて難しいと言われています。
さらに上質なアラビカ種を栽培するには、温度・降水量・土壌の質・日当たりの5条件を整え、丁寧に育てなければならないのです。
標高1,000~2,000mで15~25℃が理想的な栽培地
コーヒー豆の栽培には、標高1,000~2,000mの熱帯高地が適しているといわれています。
高温多湿が苦手で乾燥にも弱く、霜への耐性も低いアラビカ種のコーヒーノキにとって、熱帯高地は良質なコーヒー豆に成長する最適の場所です。
熱帯と言っても高地のため15~25℃の温暖な気候。日中はほどよい気温を維持し、夜間に15℃くらいまでグッと気温が下がるのがベストです。
昼夜の温度差で適度なストレスを与えてあげると、コーヒーチェリーがじっくりと熟しながら密度を増し、甘みが強くなっていきます。
またコーヒーベルトに属する生産地では、アラビカ種の栽培が盛んに行われています。
これらの生産地もすべて山岳地帯などの熱帯高地。その理由は、コーヒー栽培に必要な温度差を生み出せるからです。
ミネラル分をたっぷり含んだ火山灰性の土壌が最適
アラビカ種を栽培するうえで、土壌と降雨量も欠かせない大事な条件です。
土壌はコーヒーノキがしっかりと根を張るための基礎。そこから必要な栄養分を取り込まなければなりません。
元気なコーヒーノキが育つには、ミネラル分を多く含んだ火山灰性の土壌が最も適しています。
特にデリケートなアラビカ種の場合には弱酸性の土壌が有効です。
しっかりとした降雨量が確保できることも重要
またアラビカ種にとって年間降雨量1,500~2,500mmが必要であり、コーヒーノキは成長期と収穫期を繰り返します。
成長期には十分な水分を与え、乾燥した時期に収穫期を迎えます。
つまり良質なコーヒー豆を栽培するには、雨季と乾季がはっきりとした環境であることも重要なのです。
さらにコーヒーノキは高温多湿が苦手。もちろん、水はけが良い土壌であることも必須です。
アラビカ種のコーヒーノキは収穫まで5~6年
コーヒーの芽生えの時期には、コーヒー豆がそのままの形をした可愛らしい発芽光景を見ることができます。その後、葉が出てくるとぐんぐん背が伸びていきます。
アラビカ種は地中深くに根を張る性質があるため、1.5m程度の間隔をあけて移植しなければなりません。
収穫可能なコーヒーノキに成長すると高さは3~4mになりますが、収穫しやすいように木を剪定する作業が必要になります。
大体2mくらいの高さに整えるのが一般的です。雨季に入る頃には、開花の時期を知らせてくれる雨、ブロッサムシャワーが降り注ぎます。
その後小さな白い花を咲かせて、コーヒー畑はジャスミンのような香りに包まれます。
完全に成長すれば、30年間ほど収穫することが可能になる
華やかな時期を経て、小さな緑色の果実を枝に実らせます。
この果実は成長とともに徐々に赤みを付け、実が熟したコーヒーチェリーができます。
アラビカ種は開花からコーヒーチェリーになるまでの期間がカネフォラ種と比べて短く、6ヶ月~9ヶ月ほど。発芽から収穫までは5~6年といわれています。
完全に成長したコーヒーノキは、その後30年間ほど収穫を続け市場に出すことができます。
アラビカ種とロブスタ種の違い
アラビカ種 | ロブスタ種 | |
含油率 | 15%~17% | 10%~12% |
カフェイン含有量 | 0.8%~1.2% | 1.7%~2.4% |
糖度 | 6%~9% | 3%~7% |
染色体数 | 44 | 22 |
アラビカ種の栽培条件や特性を見てきましたが、もっと踏み込んで、科学的な見地からアラビカ種の特徴を引き出してみましょう。
アラビカ種と同じ3大原種のひとつであるロブスタ種との成分を数値で比較しながら、違いを分かりやすく解説します。
含油率が高いと口当たりが良い豊かなコーヒーになる
データにある含油率とは、コーヒー豆に含まれる油脂の割合でありコーヒーオイルとも呼ばれます。
コーヒー豆の表面に見られる、艶や淹れ立てのコーヒーに浮かび上がる油がコーヒーオイルです。糖度はコーヒーチェリーに含まれる100gあたりの糖分。
データを見てみると、アラビカ種の含油率と糖度がロブスタ種よりも高いことが分かります。これらの数値が高いほど、口当たりが良くなり豊な香りを持ちます。
カフェイン量の多いロブスタ種は病害虫に強い
さらにカフェイン含有量については、ロブスタ種の方が遥かに高い数値が示されています。
カフェインの量は、病害虫への耐性の高さに比例します。
つまりカフェイン量の少なさは、アラビカ種が病害虫に弱い理由のひとつとなっているのです。
染色体数が違うアラビカ種とロブスタ種
アラビカ種の天敵のひとつがさび病などの病害虫。さび病は糸状菌(カビ)による病気で繁殖力が高く、コーヒー生産者を悩ます問題でもあります。
過去には栽培地全域にわたって、壊滅的な被害を受けたこともあるほどです。この深刻な問題を解消するためには、病害虫への耐性が高い品種との交配が必須。
まさにロブスタ種との交配は、アラビカ種にとって生産性を高める上でも期待される品種開発なのです。
アラビカ種とロブスタ種の人工交配に成功
アラビカ種の染色体数は44、対してロブスタ種は22。双方の染色体数が一致しないため、以前は交配できないと言われていました。
この要因が開発を遅らせたものの、現在では画期的な研究開発が進み、ついに人工交配に成功したのです。
そのひとつが薬品を使ってロブスタ種の染色体数を倍にする方法。アラビカ種と一致させることで交配が可能になり、病害虫に強い品種を生み出しています。
気候変動への対応も迫られる
気温の上昇や病害虫の増加などが懸念される気候変動も、世界中のコーヒー生産者にとって大きな脅威になり得ます。
これにはアラビカ種もロブスタ種も同じレベルでの対応が求められます。
その未来を担う品種として注目されているのが交配雑種第一代(F1)。
最先端のコーヒー研究所World Coffee Research(WCR)が開発した新品種で、親のアラビカ種とロブスタ種の高質な特性のみを掛け合わせています。
両親よりも生産量が多く、病害虫への耐性と環境への適応性がともに高い性質を持ち、高品質であることが特徴です。
アラビカ種の品種
エチオピア発祥のアラビカ種が本格的に栽培されたのはイエメンに渡ってからです。
突然変異や自然交配・人工交配を繰り返しながら、徐々に世界中に広がっていきました。
今ではアラビカ種から非常に多くの品種が誕生しています。
味や香り、豆の形状などがすべて一致するものはなく、それぞれに個性があります。そんなアラビカ種の中で、特に代表的な品種をご紹介しましょう。
ティピカ種
アラビカ種で最も古くから生息する歴史あるティピカ種。豆は少し先の尖った細長い形状をしています。
鮮やかな酸味と香り、コクが優れていて、バランスの整った上質な品種です。
しかしデリケートで病害虫に弱く、気候への適応性も低いため、非常に育てにくい品種でもあることから栽培・生産量が大きく減少しています。
[関連]ティピカ種とは?コーヒー品種の特徴と味わい、歴史について
ブルボン種
ブルボン種はティピカ種とともに在来種とも呼ばれ、イエメン原産である原種系の品種です。
フランス領のレユニオン島(旧ブルボン島)で発見されたことから、ブルボン種と名付けられました。
コーヒー豆の形状は類似せず、丸く小ぶりです。
生産性の高さはティピカ種よりも20~30%多いと言われるものの、栽培の厳しさはティピカ種とほぼ同等のため、収穫量は減少傾向にあります。
現在はブルボン種の突然変異種や、品種改良した品種がおもに栽培されています。
カトゥーラ種
ブラジルでブルボンの突然変異によって生まれた品種です。コーヒー豆は小ぶりで樹高が低い矮性です。
病害虫と低温への耐性があり、生産性が高い性質を持っているものの、栽培地によって収穫量の変動が激しい性質を持ちます。
そのため安定性のあるコロンビアやグァテマラなど、中南米で主に栽培されています。
味は渋みの強さが特徴的で、心地よい酸味と風味のバランスが優れています。
パーカス種
エルサルバドルのサンタアナ火山に位置する農園で発見されたブルボン種の突然変異種。
エルサルバドルではブルボン種に次いで生産量が多く、国内栽培のシェアのうち約30%がパーカス種です。
樹高が低く、大きく厚みのある葉を持ちます。病害虫にも強く管理しやすい品種で、生産性の高い性質を持ちます。
栽培環境が低地でも育つ品種ですが、標高が高くなるほど、より良質で風味が豊かになります。
パカマラ種
パカマラ種は、エルサルバドルの国立コーヒー研究所によって誕生したパーカス種とマラゴジッペ種(ティピカの突然変異種)の人工交配種です。
豆はとても大きな粒で、優れた味と個性的な香りを持ちます。
エルサルバドルやグァテマラで栽培されているものの生産数が非常に少なく、希少性の高い品種と言われています。
ムンドノーボ種
ブラジルを代表する品種のひとつで、スマトラ種(元はティピカ種)とブルボン種の交配種です。
スマトラ種とは、インドネシアのスマトラ島で発見されたティピカ種の突然変異種でマンデリンにも使われています。
ムンドノーボは力強い苦みとコクを持ちながらも、まろやかさと甘みもあるバランスの良い品種です。
過去にさび病に耐えたと言われるスマトラ種から引き継いだ性質を持ち、病害虫に強く栽培環境への適応性も高い品種。
標高が1,000m程度でも生育することから、生産性が安定した品種として定着しています。
カトゥアイ種
ブラジルで研究開発されたカトゥーラ種とムンドノーボ種のハイブリッド種です。
カトゥーラ種はブルボン種の突然変異種、ムンドノーボ種もスマトラ種とブルボン種の自然交配種なので、複雑に掛け合わされた品種と言えます。
カトゥアイ種はアラビカ種の中でも樹高が低めで剪定が必要ないため手間がかからず、収穫しやすい特徴があります。
病害に強く霜にも耐性があることから栽培が比較的容易で、生産性の高さが際立っています。風味は親にあたるムンドノーボ種よりも劣ると言われています。
ゲイシャ種
ゲイシャはアラビカ種が突然変異した在来種。エチオピアで発見され、原産地である地名から名づけられました。
エチオピアからコスタリカ経由でパナマに渡り、パナマを中心に中米で栽培されています。
樹高が高く、豆は細長い形状をしています。フローラルとフルーティを合わせ持った独特の香りを放ち、鮮やかな酸味と軽やかな甘さが特徴的です。
アマレロ種
アマレロはブルボンの突然変異種です。一般的に赤い色をしたコーヒーチェリーとは異なり、アマレロの果実は黄色。
その色から、アマレロはポルトガル語で黄色を意味する「Amarelo」という単語から命名されたと言われています。
独特の香りに甘みが加わった豊かな風味を持ちます。低木のため栽培に手間がかかりにくく、生産性の高い品種です。
SL28種
かつてケニアにあったスコット研究所(現在のケニア国立農業研究所の前身)で開発された品種です。
ケニアで栽培されるコーヒー豆の名称は、ほとんどが「SL」からはじまります。
つまり、SL28とはスコット研究所(Scott Laboratories)で開発された28番目の品種という意味なのです。
コーヒー豆は大粒で、ケニア特有のグレープフルーツのような柑橘系の香りを放つ芳香性の高さが際立ち、SL種で最高品質とも称されるほどです。
まとめ
品種の数が非常に多いアラビカ種。そこには突然変異や交配によって生まれた過程が存在しています。
アラビカ種はデリケートな品種で栽培条件がとても厳しいことから、品種改良がどんどん進められています。
今回ご紹介したアラビカ種を代表する品種もほとんどが在来種から派生したもので、いずれも個性的。
さらにはアラビカ種とロブスタ種のハイブリッド種も登場し、コーヒーの進化と多様性を生んでいます。
そんな歴史ある品種から最先端の新品種まで、幅広いアラビカ種を一つひとつ堪能するのも楽しそうですね。ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
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この記事を監修した人
JUN喫茶/オーナー兼バリスタ
元々はパティシエとしてフレンチレストランで働いた後、ラテアートの面白さに気づく。単身エスプレッソ先進国オーストラリアへ行き、メルボルンでバリスタを経験。
ニュージーランドにも行き、ここでは世界にロースタリーを構える焙煎所の本店で焙煎士として働く。
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かつてウィーンで本場のカフェ文化に触れ、その後北部タイで薫り高いコーヒーを味わって以来、コーヒーに心魅かれる。その想いが募り、美味しいコーヒーを追求して2年間の東南アジア・東アジア放浪の旅へ。各国カフェタイムの過ごし方はさまざま。カフェ空間が人々にもたらす癒しや活力、その奥深さに魅力を感じながら、コーヒーへの探求心はなおも続く。